親不知ブルース

右下の奥から親不知がひょっこり顔を出し、その周辺の歯茎が腫れた。
もう何年も前から、時々頭を出しては引っ込んで(?)いたのだが、その時は別段痛むこともなく、せいぜいむずむずとした痒みが出る程度だった。
それが今回は、明らかに腫れているし、ズキズキとした痛みも出た。
にもかかわらず、数日間は歯医者にも行かずに放っておいた。
と言ってもやっぱりちょっと心配なので、うがい用のイソジンで、腫れている辺りを特に念入りに洗浄するようにして、殺菌・消毒効果を狙ってみたりはした。実際に効果があるのかどうかは知らないけど。
そこまでの痛みと不安とがあるのにしばらく歯医者に行かないでいたのは、もちろん、抜歯手術がコワイから。
しかも、親不知を抜いた後は痛むし数日顔が腫れる、などといった話しを聞くし、実際痛がっていた人も知っているので、正直怖じ気づいていた。

ようやく勇気を振り絞って歯医者に行ってみる。
レントゲンで見ると、この親不知のヤツったら、素人目にはちょっと妙な角度で生えている。
「こりゃあ抜くのは難儀だろうな・・・」
と思っていたら、先生曰く、
「親不知と歯茎の隙間にバイ菌が入って化膿寸前だから、レーザーあてたりして消毒しておきましょうか」
えっ? と言うことは、も、もしかして・・・
「抜かないで良いんですか?」
「うーん、まあ、この生え方なら抜かなくても大丈夫ですよ」
おっしゃーーー! ラッキーーーー!
取り敢えず安堵すると、さっき先生が言った言葉が気になった。「レーザー」って言った? 「レーザーで消毒」って――何かちょっとおしゃれ(いや何となく)。
レーザーあてられたからって別に歯茎が焦げるとかどうとかするわけじゃないんだから、「ああ、今レーザーで消毒されてんのかあ」と、ただ純粋に言葉面のおしゃれ感だけを楽しんでいたのだが、直ぐに終わってしまったのでちょっと残念。
「明日もまた消毒に来て貰って・・・」
ああ、通院して腫れを引かせればお仕舞いなんだな・・・
「落ち着いたら、麻酔して周りの歯茎をちょっと切り取っちゃいましょう。そうすればバイ菌が入りづらいようになるから」
な、なんですとっっっ?
は、歯茎を切り取るっっっ?

・・・ああ、折角、歯医者に来て気楽に施術を受けるなんて初めてだと喜んでいたのに、そんな気分も一瞬にして鬱々としたものに豹変する。
まあ、抜歯の危機を免れたことだけでも佳しとしなければ・・・。