『なにわバタフライ』

http://www.parco-mitanikoki.com/web/naniwa_butterfly/

正式表記は『NANIWA BUTTERFLY』なのかどっちなのか、あるいはどっちでも良いのか。なにはともあれ、一昨年の『オケピ!』以来久々の観劇。開場(not 開演)時間をちょっと過ぎた頃、パルコPART1の1階エレベータ前で待っていると、後ろに何だか見覚えのある人物が。どう見ても高田文夫が、普通に1人で立っていた。別に怒っているわけでも機嫌が悪いわけでも無いんだろうけど、やっぱりあの独特の目つきは恐くて苦手。否応なくそのまま同じエレベータに乗り合わせ、一緒に9階のパルコ劇場まで。そこで連れらしき人たちと合流した模様。

すでに何度か紹介しているように、本作品はなんと1人芝居。脚本の三谷幸喜にとっても演じる戸田恵子にとっても、そして観劇する僕自身(とその他の恐らく大勢の観客)にとっても初体験。最前列で、戸田恵子の芝居を間近に見る(見上げる)。でも正直、あと2、3列後ろの方が見やすかったかも・・・なんて贅沢なことを言ってみたり。

1人芝居とは言っても、たとえば最近で言えば、青木さやかが『エンタの神様』でネタを演る時のように、「相手」のセリフをまんま「繰り返す」ような不自然なことは決してせず、もっぱら、相手が何と言ったのかはその後の戸田自身のセリフから想像させるような、いわば「相手の見えないダイアローグ」(パンフレットより)形式。僕を含めた多くの観客たちは、開演後しばらくはその形式に戸惑っていたような雰囲気だった。でも、しばらく観ているとその形式にも慣れて来て、いつしか「相手」が自然に見えるようになって来る。「登場しない人物」が独特のキャラクターを持って「登場して来る」のだ。「パントマイムの芝居バージョン」とでも言ったら良いだろうか。イッセー尾形の1人芝居などを見慣れている人にとっては新鮮でも何でもないのかも知れないが、そうでない僕のような観客には新鮮だったに違いない。

実はこの「1人芝居」、舞台には戸田恵子以外にも2人、上がっていたりする――マリンバの小竹満里*1とパーカッションの山下由紀子。どういう形で上がっているのかは一応伏せておくが、彼女たちによる生演奏によってBGMや効果音(+α)が付けられていた。それ用の舞台設定は個人的にはちょっと意表を突くものだったが、でもむしろ、本作品の場合は実に数多くの小道具が縦横無尽の大活躍を魅せていたのが何より印象的だった(「どのように」かは、観てのお楽しみ)。

戸田恵子ほぼ2時間1人で喋りっぱなしで、大熱演だったと思う。何と生瀬勝久が「方言指導」にあたったらしい関西弁のセリフは、もしかすると「ネイティブ」の人たちからは(とりわけ大阪公演では)厳しい評価に晒されるかもしれないが、でもそれも差し引いても、ミヤコ蝶々をモデルにした1人の女芸人の一代記を見事に演じ切っていたことに変わりはない。とはいえ最後に、本作品は三谷氏にとって文字通り「実験」的な試みだったと言えるだろうが、正直、その実験が完璧に大成功を収めたかと言えば、必ずしもそうとは言い切れないかもしれない。やはり肝心のコメディ表現の部分で、氏はまだ、1人芝居用のその手法を完成させてはいないように感じた。

だがそれでもなお、本作品はその手法開発の1つの大きな場になっていることは疑いない。10年以内に生瀬勝久の1人芝居を書くことをパンフレット上で約束しているので、それまでにはその手法を完璧にモノにしているに違いない。いずれにせよ、三谷氏にはどんどん幅を広げて行って欲しいし、実際、どんどん広がっているように思う。期待して損はない

*1:オケピ!』に参加していた時に三谷幸喜がえらくお気に入りだったことは、DVD版のコメンタリーからも明らか。