〜 蔵王「お釜」と廃虚の誘惑の巻 〜

しばらく行くと、道路脇にちらほら雪が残っているのが見えるように。あ、まだちょっと残ってるんだなあ、なんて呑気なことを思っていたら、次第に「ちょっと」どころではなくなる。2m近くあるんじゃなかろうか。暖かかったので、意外だった。しばらく行くと、小さな店の前で停車。再び、一旦降りて5分ほど見物して良いとのこと。さっきから右手にゴツイ岩肌が見えていて、気になっていたのだった。谷の先端(?)に、展望用に設けられたちょっとした高台があったので、そこ目掛けて一目散に――さすがに走らなかったけど、早足で。

眼下に見えますのが、滝で御座います。

(確か、そのちょい右側だったかと・・・・・・。)

右手に見えますのが、真っ赤な岩肌で御座います。

「5分」ということだったが、ここからバスまでは意外と距離がある。一番先に到着した責任上(?)、今度は「誰からともなく」じゃなくまさしく僕が、先頭を切って引き返し始める。それに引きずられるように、他の人たちも引き返し出す。乗客たちがバスに戻ると、そこからはもうホンの数分で最終地点の刈田山頂のはず。買っておいたパンを腹に詰め込む。運転手さんによると、前日はガスが出ていてほとんど見えなかったとのこと。ラッキーだった。

山頂の駐車場に到着すると、すぐ目の前にレストハウスがあって、食事も摂れるようになっていた。正直、さっきのパンだけでは物足りなかったため、「お釜」にお目通り願う前に、はやる気持ちを抑えつつ、追加で軽く食べることに――なぜか肉まんを選択。その(かなり長時間保温器に入っていたのであろうシワシワの)肉まんをお茶と共に速攻で流し込むと、いざ、「お釜」の方へ。そこからはもう、ホンの目と鼻の先。

「うわっ、出たっ!」――というのが率直な感想。だって、あまりにも「そのまんま」なんだもん。笑っちゃうほど絶好の天気に、笑っちゃうほどイメージ通りの「お釜」。まあ、もう言うことないんじゃないでしょうか。どんなアングルで写真を撮ったって、良くも悪くも絵葉書っぽくなっちゃいます。個人的には、どうしても『おもひでぽろぽろ』を思い出してしまいます。なるべく違った角度から「お釜」を見てみようと、山形方面へズンズン歩いて行ってみる。坂だし岩もゴロゴロしているので足元は決して良くはないけど、そういう所を歩くのは嫌いじゃない。

オリジナリティ、まるでゼロ。

ちょっと(実は結構?)まわり込んでみました。

この後、予定ではリフトに乗って下の(さっきバスを降りた所とは別の)駐車場に行くことにしていたのだが、そのリフト乗り場をかなり通り過ぎてしまっていることにようやく気がつく。でもまあ、まだ時間はたっぷりあるので、焦らずに引き返す。小さなリフトには、往路も復路も誰一人乗っていなかった。でも、そんなこと全く気にせず、というかむしろ嬉々として乗り込む(もちろんお金を払って)。そう言えばしばらくスキーをしていないので、リフトに乗るのは久しぶり。見晴らしの良い周囲を眺めながら、のんびり日向ぼっこ。約5分ほどの行程を独り占め。

自分の姿(=小汚い靴)を写し込んだ写真、本邦初公開。

リフトを降りると、まずはバス停で「蔵王温泉」行き(経由)のバスの時刻を確認。予め調べていたのは「12時50分」、でも1ヶ月ほど前に改正されていたようで、実際には「13時」――あとちょうど1時間。すぐ目の前には休憩や飲食ができる店もあったものの、周辺を散策。駐車場を挟んだ向かいに、俄然目を引く物件を発見! なんじゃアレ? 近づいてみると、どうやら旧リフト乗降場らしい。でも何やら書いてある。「県境裁判を忘れるな!!」「県境裁判現地」・・・・・・。もちろん、宮城と山形の、でしょう。で、結局決着は着いたのでしょうか? この辺りのどこが県境?

――なんてことには実は特に興味は無く、僕の興味は断然この廃虚そのものに。外見は、下の写真をご覧の通り。中を覗くともう無っ茶苦茶。リフトの柱たちも、サビて真っ茶色になりながらもなおその場に立ち続けている。なぜ、取り壊されずにいつまでもこんな姿をさらしているのだろう? もしかして、「県境裁判を忘れ」ないため? 「物」に託された執念は、その「物」が風化するに連れて怨念へと変わって行く(スーパーヴィーニエンス?)・・・・・・なんてことを否が応でも感じさせる光景。しかしそれにしても、目の前には何台も車が駐車しているというのに、この立派な(?)廃虚を見物に来る人が1人もいないってのは一体どういうこと? まるで、何か見ちゃイケナイものであるかのように――。

実にインパクトのある存在感です。

不謹慎ながら(?)、妙にソソられる光景です。

しばらく辺りをブラブラした後、店の前に戻ってベンチで休憩。そうこうしているとバス(今度は観光バス・タイプ)がやって来たので乗り込むと、なんと、ちょうど1人分を除いて満席状態に(あとは補助席)。必然的に、そこへキッチリと収まる。まるで予め僕がここから乗る予約を入れていたかのようで、変な感じ。でもラッキー。そこから蔵王温泉バスターミナルまで、これまた約1時間の道のり――。