恩田陸『ネクロポリス 上/ネクロポリス 下』(朝日新聞社)

装丁(含・装画)に惹かれて思わず買ってしまう。さすがは鈴木成一デザイン室!

イギリス文化と日本文化が融合した極東の島国、V.ファー。その国のアナザー・ヒルと呼ばれる土地では、「ヒガン」の期間中、死者が実体化して現れる。彼らは『お客さん』と呼ばれ、決して嘘を付かないとされる。死をもエンターテインメントとして受け止めるこの国の人々。初めてヒガンに参加した、東京大学文化人類学を専攻する大学院生ジュン(ジュンイチロウ・イトウ)は、その国の風変わりな風習とアナザー・ヒルで繰り広げられる異様な祝祭空間とを目の当たりにするが、今回のヒガンはなぜか史上稀に見る異常事態に。V.ファーで起きていた『血塗れジャック』による連続殺人の被害者たちが『お客さん』として現れれば、犯人に繋がる重要な証言が得られるかもしれない。にもかかわらず、よりにもよってアナザー・ヒルの境界線上の鳥居に死体が吊され、さらにはアナザー・ヒル内でも!? このヒガンでは、一体何が、なぜ起こっているのか?

ファンタジックで独特な世界を構築しつつも、飽くまでもその世界のルールに則った事件とその解決とを読者に提供するというタイプの(ミステリィ)作品かと思いきや・・・・・・全くそうではなかった。ある登場人物の言を借りれば「ミステリとファンタジーとホラーが混じっている状況」がこれでもかと言わんばかりに怒濤の如く展開して行く様は圧巻だが、さすがに大風呂敷を広げ過ぎたか、畳み方がいささか強引な力技に頼り過ぎているし、正にそれによって畳み方があまりにも雑に過ぎているという印象ばかりが残った(宮崎駿版『ハウルの動く城』の畳み方を連想してしまったと言えば、分かり易い?)。幻想的かつ独創的な世界観や、その世界ならではの様々な事件ならびに出来事はとんでもなく魅力的で思わず引き込まれるのに、結局は、これまたある登場人物の言を借りれば「こんなオチってあり?」(これってある意味、作者自身による一種の開き直りとも・・・・・・)。

でも別に、「ミステリィ」を表立って謳っているわけではないからそれはそれで全然構わない、飽くまでもファンタジー小説としてその独特な世界観それ自体を楽しめればそれで良いのだ――と言って心の広い所を見せたいところなんだけど、哀しいかな本音の部分ではやっぱり納得出来ず。基本がファンタジー(ファンタジック・ホラー?)なのは良いとしても、折角張り巡らせたそれ自体魅力的な伏線の数々を一つ一つ丁寧に(=整合的かつ詳細に)回収してくれないことには、正にそれを楽しみに読み進めて来た(恐らく多くの)読者の1人としては、何だか重大な裏切りを受けたような感覚を持ってしまって読後感がよろしくない。とりわけ、その作品が「大作」であった場合には・・・・・・。