「ミッシング・常識」 in 床屋
今日は妙に疲れた――ってことだけでさえ書くのはやめよう日記になってしまうから。
以前床屋に行くと、横と後ろはこれくらい、前はこれくらいにして下さいと注文し終わって安心(?)していた所へ、ふいに、
「上はどうしますか?」
と訊かれることがあった。
・・・???
僕は混乱する。だって僕は別に、ファンキーなあんちゃんのように髪の毛をツンツンに立てているわけではないのだから。もう、毛先という毛先は全部、前後左右に流れている――さらさらと。あんまりしっとりはしてないかもしれないけど。
さてそうなると・・・
「上」ってどこですか?
はっ、も、もしかしてザビエルですか、あのザビエルなんですか!?
下手に「短くして下さい」とか言うと、知らないうちにフランシスコ・ザビエルみたいにされちゃうんですか?
いや真面目な話し、本当にそうとしか思えない。
一度実際に、勇気を出して訊いてみたことがある。
「上ってどこですか?」
すると床屋のあんちゃん(以上おっさん未満)は、
「ここですよ」
と、「はっ? そんなのも分かんねえのかよこの客」と確実に頭の中でバカにしているような口調で答えながら――「上」の髪を掴んでいる。
とにかくそれが「上」だということだけは分かる。だって、実際髪の毛を、横でも下でもない、紛うことなく「上」に持ち上げているんだから。
ただ・・・。
このあんちゃん(以上おっさん未満)が今掴んでいる「上」の髪って、結局「どこ」の髪なのだ?という疑問は、僕の中ではなおも未解決のままだったりする。
折角の「勇気」がもろくも玉砕。
たとえば、毛先が横に流れている髪を掴んで上に持ち上げたら、そりゃあ毛先が「上」に来るのは当たり前だ。でも、それって結局「横」じゃ・・・。
当然、前後左右、どこに関しても同じことが言えるだろう。ということは・・・
(うわっ、やっぱザビエルだよ!)
そう、結局そうとしか考えられないのだ。
「・・・適当に合わせて下さい」
完全に敗北である。
日常社会には、他人様がごく当たり前のように理解出来ているにもかかわらず何故か自分だけは全く理解できないでそこから取り残されているような「常識」が、もっと大量にあるに違いない。
そんな「ミッシング・常識」に、もっと出会ってみたい。