『イノセンス』

http://www.innocence-movie.jp/index1.html

水曜日のサービスデーに観る。前評判は(個人的に確認した限りでは)何だか微妙だったのでちょっと不安だったが、杞憂だった。千円では安過ぎた?

前作『攻殻機動隊』をビデオで視たのは何年前になるのか、もうすっかり内容を忘れていた。DVDをレンタルして復習しておきたくても、さすがに貸し出し中が続いていてなかなか借りられなかったのが、ようやく一瞬の隙をついて(?)借りることに成功。そうか、そういう話だったのか。

今作『イノセンス』は、タイトルからも察せられる通り、敢えて続編的な印象を持たせないような配慮が働いており、「前作を観(視)ていなくても独立の作品として楽しめる」といった宣伝文句も聞かれた。でも実際には、やはり前作を観(視)ておくに越したことはないなと思った。復習しておいて正解だった。だから以下は、飽くまでもその上での感想。

まず、ストーリー的には特に難解ということはなかった。実は結構オーソドックスな刑事ドラマ(あるいはハードボイルド探偵もの)だったりする。仮に「難解さ」の雰囲気を醸し出しているファクターがあるとすれば、それはやはり独特のセリフ回しだろう。でも、その内容としては特に斬新かつオリジナリティのある考え方が開陳されているわけでもなく、単に持って回った意味ありげな語り口をしているだけのことだし、聖書などからの引用に至っては別段正確に理解する必要すらなかった。それらは偏に、世界観を形作っているファクターの一部に過ぎない。

個人的には、すかしたセリフのやり取りという点に関しては森博嗣作品(小説だけど)で充分過ぎるほど慣らされていたせいか(?)、別段難解にも不自然にも感じなかった*1

この種の作品の「難解」という印象は、ストーリー自体が抽象的・観念的であるからというより、実はむしろ、単に登場人物同士や彼らと登場組織(?)との関係性を把握し損ねがちだからに過ぎなかったりする。説明し過ぎも興ざめだけど、説明しなさ過ぎもどうかと思う。そこんとこはもうちょっと工夫して欲しかった*2。いずれにせよ、そうした関係性さえ掴めれば「なあーんだ」ってことになる。だから、セリフの内容を正確に理解しようと頑張るよりこっちの理解を優先させるのが良い。

確かに小難しいテーマを扱ってもいるけど、ラストでの某少女の叫びとそれに対するバトーの反応にこの作品のストーリーとしてのポイントが集約されていると取るなら、これは明らかに、純粋な(?)ヒューマンならぬサイボーグ・ドラマだ。でも、その後少佐が去り際に言ったセリフは、もしかするとバトーにとっての救いになったのかも――などと思いを巡らしてみる。ちょっと単純かな。詳しく書けないのがもどかしい。

そして、何と言っても圧巻はその映像美。莫大な情報量で迫って来る、濃密かつ有機的な画。大画面で見る価値あり。『イノセンスの情景 Animated Clips』はちょっと欲しいかも。

ただ、ちょっと見、最近のテレビゲーム中のムービーと大して変わらないように思えてしまうシーンもちらほら。この作品のそのシーンがダメなのか、それとも、最近のテレビゲームの方が凄過ぎるのか・・・。

また、CGを多用すること自体はもちろん構わないんだけど、だからと言って、それで極端にリアルな物体を描いてしまうのは逆効果だと思う*3。飽くまでも「アニメ的」な質感を残した上での「リアル感」――これが大事。だって、折角「実写以上のリアル感」を出すことが可能なのに、わざわざ「実写並のリアル感」に甘んじるなんてナンセンスでしょ?*4

何だかんだと薄っぺらい御託を並べては来たけど、要するに「なかなかどうして、悪くなかったな」ってこと。わざわざ僕ごときなんかが言うまでもなく、アニメ映画としてかなりの水準に達していると思う。世界進出は当然でしょう。


ところで、余談だけど、「この作品には犬が出て来る」って言ったって、出て来る犬はことごとくバセットハウンドじゃん。犬と言ったらバセットハウンドなのか。バセットハウンドでなければ犬にあらず――なのか。バセットハウンドは犬界の平家なのか。

たとえば、「この作品ではスポーツが扱われている」と言われて、でも実際に出て来るスポーツはことごとくバドミントンだったりしたら、どう思うか。確かに間違ってはいないけどさあ、でも、だったら「この作品ではバドミントンが扱われている」って言えよ――って思いません?

・・・いや、ただそれだけ。

*1:いくら何でも不自然にすら感じなかったのは不自然だろう、という気もするが。

*2:でもたぶん、それすらも「ねらい」だったりするのだろう。たとえばシャープでスタイリッシュな印象を出すための演出とか・・・。

*3:たとえば、どアップになった時のカモメ(?)とか。

*4:「この作品は『イノセンス』だけどね」――という言葉が一瞬でも頭をよぎった人は、正直に白状するように。