『お熱いのがお好き』

太陽がいっぱい』で、「昔の外国の大物俳優が出演していることで有名な作品」に対する偏見が完全に払拭されたため、この路線を責めてみる気になる。最初に念頭に浮かんだのがなぜかマリリン・モンロー。彼女の出演作品としては、『お熱いのがお好き』と『七年目の浮気』が特に有名だと思うが、この両作品ともに監督は実はあのビリー・ワイルダーマリリン・モンローだけだとやはりどうしてもいろいろな意味で「色物」という印象がやはりどうしても払拭し切れず(ダメじゃん)、何というか、他に「面白さの保証」が欲しかったんだけど、純粋にビリー・ワイルダー監督作品を観るつもりで借りれば大丈夫だろうと自分に言い聞かせる(って大げさな)。個人的にビリー・ワイルダーと言えばジャック・レモンだったため、彼も出演している『お熱いのがお好き』の方を選択。

ギャングに追われる2人を演じるのはトニー・カーティスジャック・レモン。彼らは女装して女性だけのバンドに潜入、そこで出会ったヴォーカルのマリリン・モンロー(が演じる女性)に惹かれるのだが・・・。実は、決してマリリン・モンロー独りに焦点を当てた「アイドル映画」ではない。借りる際に僕自身が思った(思い込もうとした?)通り、この作品は飽くまでもビリー・ワイルダー監督による傑作コメディ。もちろん、マリリン・モンローが歌うシーンは(確か)2箇所ほどあって、そのキュートさを存分に振りまいていたし、特に"I wanna be loved by you"なんかは誰もが知るまでになったわけだけど、それでも、彼女は飽くまでも「主人公2人のマドンナ」的存在にとどまっているように思う。でも逆に言えば、それだけ2人の男性陣の存在感が大きかったということでもある。

トニー・カーティスジャック・レモンの女装に意外と違和感が無いところが面白い。実はこの作品、この2人の女装があまり見苦しく見えないようにするために、敢えてモノクロで撮影されたらしい。でも、マリリン・モンローはそれが気に喰わず(それ以外にもいろいろあったんだろうけど)、ビリー・ワイルダーを「独裁者」呼ばわりしたとか。面白い(?)ことに、彼女とのキスシーンを演じているトニー・カーティスは逆に、「彼女にキスするのはヒトラーにキスするのと同じだ」と言ったとか。そんな「独裁者がいっぱい」な状況の中で制作されたにもかかわらず、出来上がった本作品は底抜けに明るく楽しいコメディに仕上がっているんだから分からないものだ。(DVD版には、この文章に名前が出て来た人の中で唯一存命しているトニー・カーティスへのインタビューが収録されていて、これも必見。)

ところでラスト・シーンでの大富豪のセリフは、あまりに印象的であるがために、今となってはそれだけが文脈を離れて一人歩きしている。たとえば相田みつを的な意味で使われることがほとんどだろう。でもそのオリジナルは、腰を抜かすようなこんな仰天告白的な意味だったとは・・・! いやホント、この大富豪役の人は登場シーンからしていい味出しまくっていて、ラストのこのセリフでもう全部持って行ってしまった感がなきにしもあらず。

最後に、お熱いのがお好き』という邦題だけ見る限りではマリリン・モンローが演じる女性のことを象徴的に表しているように思えるかもしれない。そして確かに、実際の作品中にも、この邦題から連想されるようなシーンがなくもない。でも、上でも書いたように、本作品は決して、特別に彼女がメインの作品だとは言えないのであった。原題の"Some like it hot"は、作品中では(僕自身が聞き取った限りでは)トニー・カーティスが演じる役の人がさらに演じている男(ややこしくてすいません)が言っているが、それは全く邦題から連想されるような場面でも意味でもない。これが実はマザー・グースの一節から採られたものだということは、結構知られている。

Pease porridge hot,
Pease porridge cold.
Pease porridge in the pot
Nine days old.
Some like it hot,
Some like it cold.
Some like it in the pot
Nine days old.

'pease porridge'というのは豆のお粥らしいだけど、「(それの)熱いのが好きな人もいる」と。そして、ここまで書いた時、実は(少なくとも日本では)結構気づかれていないのではないか(そんなことない?)と勝手に思っているある事実に、今さらながら気が付いた――。

この原題、実は先ほど紹介したラスト・シーンでの大富豪のことを示唆していたのだ!

十中八九間違いないと思う。いやあ、ビックリ