『暗くなるまで待って』

オードリー・ヘプバーン出演作品を一本観てみようと思って、『ローマの休日』でも『ティファニーで朝食を』でも『マイ・フェア・レディ』でもなく敢えてこの作品を選ぶ人なんて、そうはいないのでは? 一見、タイトルからすると甘ったるい(?)恋愛ものに思えるかもしれないが、実は歴としたサスペンスもの。しかも設定も面白そうだったので、迷い無く選んでみる。結果、大正解だった。

オードリー・ヘプバーンが演じるのは盲目の主婦。夫の留守を狙って、その夫が持ち帰った人形の在処をさぐりに3人の見知らぬ男たちが次々とやって来るのだが・・・。主要なストーリーはほぼ夫婦のマンションの中だけで進行する一種の密室劇で、「シチュエーション・コメディ」ならぬ「シチュエーション・サスペンス」といったところか。舞台向きでもあるかもと思っていたら、やっぱりフレデリック・ノットによる戯曲を原作としていたらしい。観終わった後、「昔の洋画のサスペンスと言えば、ヒッチコックの『ダイアルMを廻せ』も面白かったよなあ」と唐突に思ったのだが、これまた調べてみると、なんとそれもフレデリック・ノットによる原作・脚本とのこと。今後はちょっとこの人の原作・脚本ものを気に掛けてみることにしよう。

それはそうと、なにはともあれオードリー・ヘプバーンの演技の良さがポイントだったような気がする。不安や怯えやショックの演技がホントにリアルで、自然に感情移入できる。確かに、外見的には年齢的な衰えがやや見え隠れするものの、その気品の高さと芯の強さは決して失われていない。盲目の主婦が3人の悪党とどう対決するのかが最大の見所なのだが、そうしたオードリーの演技や雰囲気のおかげで、ラストでは思わず夫の側と同調してしまい、「良くやった、ホントに良くやった・・・」と涙ながらに抱きしめたくなってしまう(いや、ホントに)。そのラスト直前のあるシーンでは、サスペンスというより「スリラー」ものにありがちなお決まりの手にまんまと引っかかって、猛烈にビビる。やはり上映当時も、そのシーンになるといつも場内では悲鳴があがっていたらしい。

いずれにせよ、いわゆるサスペンスものとしてはどちらかと言えば小品の部類に入るかもしれないし、オードリー・ヘプバーンの出演作としては恐らく異色なんだろうと思うけど、個人的にはかなりお気に入りの作品。「限られた空間で展開するストーリー」という点が、あるいは三谷作品好きの心を刺激したのかも。

余談だが、盲目の女性の家に見知らぬ男が侵入して来て・・・というプロットは、そういえばどこかで読んだことがあると思ったら、乙一『暗いところで待ち合わせ』幻冬舎文庫)。もちろん内容的には全く違うのだが、タイトルといい、彼がこの作品からヒントを得たことは間違いないと思う。