久々の小説読書Part1

本格ミステリ作家クラブ(編)『紅い悪夢の夏』講談社文庫)

あまりまとまった時間が無くても読めるように、短編集かアンソロジーを買おうと思って本屋に行ったら目に付いたので。有栖川有栖太田忠司加納朋子北森鴻柄刀一三雲岳斗らの短編と、小森健太朗、鷹城宏らの評論とが収録されている。正直、評論、特にミステリィ評論には何の興味もないので、短編作品だけを読む。

1つ1つにコメントを付けていると長くなりそうなので、個人的なベスト作品と(敢えて)ワースト作品についてだけちょっとずつ・・・。

最初はワースト作品から。有栖川有栖の短編て、これまでにも結構色んなアンソロジーに収録されていて、過去に何本が読んだことがあるんだけど、正直な話し、どれも例外なくつまらない。そして、本アンソロジーに収録されている作品「紅雨荘殺人事件」もまた同様。叙述スタイルも淡泊なら事件自体も大人し目だ(あまり興味を惹かれない)し、何より、登場するシリーズキャラまでもが淡泊かつ大人し目。何のインパクトもなし・・・。この造形の人物たちが本当にシリーズキャラなのかと、イマイチ信じられない。不幸にも、氏の作品には短編から入ってしまい、結果こうした印象を持ってしまったために、実は氏の長編作品には手を出していない――というか、手を出す勇気が湧かないでいるんだけど、長編になるとまた事情が変わっていたりするんだろうか。事件自体が大人し目なのは、短編には短編なりのものをということで分からなくもないんだけど、でも、それならせめて叙述スタイルなりキャラなりに工夫が欲しい。何と言うか、「古き良き本格」のオーソドックスな骨格だけを見せられている感じなのだ。手っ取り早く「骨の髄までしゃぶり尽くす」ことができるんだからそれはそれで良いことじゃないか、と言われるかもしれない。でも、「骨の髄まで」味わって満足できるためには、やはりその前に「お肉」をある程度堪能しておく必要があるんだと思う。「骨の髄だけ」味わったところで、むなしいだけではないか。

ということで個人的なベスト作品は、柄刀一の「エッシャー世界(ワールド)」。この人の作品に触れたのは『アリア系銀河鉄道』講談社文庫)が最初で、そのスケールの大きさと、独自に構築された「世界」における独創的なトリックとに惹き付けられた。「お肉」大好きの僕にとっては、いわばその「お肉」自体が「骨格」どころか「骨の髄」と化してさえいるような氏の一連の作品は、これ以上ないほどのご馳走。本作品は短編と言うより中編の部類に入りそうな長さなので、他の典型的な短編作品たちと同列に比較するのはあまりフェアじゃないような気はするけど、でも同時に、この(アイディアの)ずば抜け方はそんなレベルの問題ではないような気もする。たとえば本作品についていえば、あのエッシャーの騙し絵が具現している世界(!)を舞台に起こる殺人および建物消失事件と、「現実世界」でのある謎とを扱った、贅沢な内容。どうやら個人的な趣味としては、(正統な!?)「本格」かどうかなんてどうだって良い、ミステリィ的要素を都合良く利用したエンターテインメント作品なら何でも――といったところなのかもしれない。