『恋の門』

石をこよなく愛する自称「漫画芸術家」、蒼木門*1と、普段はごく普通のOLをやっている熱狂的コスプレーヤーにして同人誌漫画家、証恋乃*2が繰り広げる、シュールでエキセントリックで濃厚かつ素っ頓狂なラブコメディ!?――っていうかむしろ「ラブギャグ」か。ひょんなキッカケから門がバイトをすることになった漫画バーのマスター、毬藻田伝*3も絡んで来るからややこしくなって来て・・・。その「濃さ」のあまり毒気に中(あ)たって具合が悪くなる人が出てもおかしくないほどイッちゃってる、キャラと演出とストーリー。個人的には大好き

普通、こういう作品はそう続けて何度も観ようとは思わないもの――でも僕は観たわけです、なんと3回も。だってコメンタリーが2種類*4あったから。もちろん所々飛ばしながらではあったけど*5。一度観ただけだと、ただひたすら呆然唖然とするか、爆笑苦笑を繰り返すかのいずれかなんだけど、繰り返し観ている内に、実はこの作品、意外と細かい伏線が張られてもいて構成も結構巧妙だったりすることに気づく。すっかり「大人計画」化されつつある(?)酒井若菜の「トンでる」女のコの演技は、いつもながら見ていてハマる。松田龍平も意外な怪演を見せていて、父ちゃんが生きてたら良くも悪くも「なんじゃあこりゃあ!」と絶叫すること間違いナシ。

日本映画ではなぜか好まれる(?)カメオ出演。この作品も異様に多い。個人的には、こんな風潮止めたら良いのにと思う。庵野秀明が最近「映画やTVCF(製作じゃなくて出演!)に大活躍」なのはどういう風の吹き回し*6なんだろう。また、コスプレ、コミケ、同人誌といった系統に縁がないと楽しめないんじゃないかと心配する声も聞くけど、多分そんなことはないでしょうし、実際そんなことはありませんでした。むしろ縁がない方が純粋に楽しめるんじゃないかと思うくらい。平泉成大竹しのぶは一体どんな気持ちで演じていたんだろう、ということにはちょっと興味あり。出演キャラの中で大竹まことが一番まとも(?)な役だったこと自体が一種のギャクなのだろう。片桐はいり田辺誠一のコンビは最強。

大絶賛して他人(ひと)にも奨めようものなら、ヘタすりゃ人格を疑われかねないんじゃないかという恐れもあるし、だからと言って酷評しようものなら、度量も狭けりゃ頭も堅いつまらんヤツとの誹りを免れないような気もするし、という小市民的な考慮が暗黙裡に働いた末に、結局何だかんだ言って実質的には中間くらいの評価に落ち着くことになりがちな、そんな作品。実際ネット上で見かける感想も、基本的には好感を持ったという内容であるにもかかわらず、でもなぜかダメ出しばかりだったり、逆に、基本的には嫌悪感を持ったという内容であるにもかかわらず、あげつらっているのは「それこそが正にこの映画の面白い所だ」と言えるポイントばかりだったり、というようなものが多く見受けられました。要するにこの映画、何だか良く分からないけど観る側の感性を揺るがす「問題作」だとは言えそうです。

これから(DVDなどで)観るつもりなら、最低2回は観てみることをお奨めします――ただし、色んな意味での健康のためにも、少し時間を開けて・・・。

*1:あおき・もん――「門」が名前。松田龍平が演じる。

*2:あかし・こいの――「恋乃」が名前。酒井若菜が演じる。

*3:まりもだ・でん――「伝」が名前。脚本・監督でもある松尾スズキが演じる。

*4:松尾スズキ+松尾妻子+斎藤拓バージョンと、松田龍平酒井若菜バージョン

*5:世に映画やDVDの評論や感想は数あれど、DVD特典のコメンタリーに対する感想に特化したものってまだほとんど見かけないような気がする。僕自身は以前からこのブログでも、コメンタリーに対して必要以上に目をつけて来た。もしかすると、コメンタリーの感想って今のところ「すきま産業」なのかも知れない。今度から作品本編の感想はそこそこに、コメンタリーの感想に重点を置いてみるのも面白いかも――と考え中。この作品のコメンタリーに関しても色々言いたいことはあるんだけど、今回は省略。

*6:って使い方間違っているのは重々承知。