『THE有頂天ホテル』

晦日、年が明ける2時間(とちょっと)前。カウントダウン・パーティが催されるホテル・アバンティに続々と集まる、様々な事情を抱えた様々な人たち。彼・彼女らの行動1つ1つが他の人たちの状況に影響を与えて行った挙げ句に、彼・彼女らがカウントダウン・パーティに集まる時、その一人一人がちょっとだけ幸せになっていたり――なっていなかったり。いくつものストーリーが同時進行しつつ、それらが重層的に関連し合って行くため、これ以上あらすじを書くのは無理です。

観る前は、「みんなが<1つのこと>に向かってそれぞれの役割を果たした結果、最後にはそれらが有機的に関連し合って<1つのこと>へと結実して行く」というタイプの作品に違いないと思っていた。でも、必ずしもそうではなかった。確かに最後には登場人物みんながカウントダウン・パーティに集まりはするんだけど、それこそみんなが一ヶ所に集まるというだけであって、何も、みんながみんなそのパーティの成功を目指してそれまで行動していたワケではない(それを目指して行動していたのは、ホテル関係者と芸人たちだけ)。笑い処も、もちろん至る所に仕掛けられてはいるけど、いかんせんどちらかと言うと小ネタが多く、「爆笑」出来るような箇所はほとんど無かったように思う。三谷氏自身はパンフレットで「深夜枠のドラマ風」と言っているんだけど、まさしくその通りだと思う。出演者やセットは豪華だけど、ストーリー自体は思ったより「地味」なのだ。また、過去に何度か使ったことのあるネタを(映画でも)あらかさまに使い回すのは止めた方が良かったのでは? とはいえ、これって三谷氏には結構多い手法(?)ではあるんだけど。

いずれにせよ、これらの要素が集まったせいかは知らないが、個人的には、ラストになってもさほどカタルシスが得られなかったのがちょっと残念。こんなこと言いたくないけど、「策士、策に溺れる」の感が若干・・・・・・。でも、これだけは確かに言えます。観終わった後は、ちょっぴり温かな気持ちで映画館を出られることでしょう。

前作『みんなのいえ』の主人公夫婦(田中直樹八木亜希子)が出ていたり、「芹沢鴨」(佐藤浩市)が「近藤勇」(香取慎吾)と抱擁したり「新見錦」(相島一之)に使われたり、といった見方をしてみるとほのかに面白いかもしれません。

今回、ちょっと評価が低目になったのは、もしかすると、脚本の幾何学的な美しさがより際立った映画作品を観た印象があまりにも強く残り過ぎていたからなのかもしれないのですが・・・・・・それはまた、別の話し。