「応用倫理学」と「倫理的思考の応用」の違い

アンソニー・ウエストン『ここからはじまる倫理』野矢茂樹・高村夏輝・法野谷俊哉 訳、春秋社、2004年)

原題は“A Practical Companion to Ethics”なので、強いて直訳すれば、『倫理学の実践的手引き』とでもなるでしょうか。あるいは『実践的倫理学への招待』とか『倫理学の実践のために』とか? それをこの邦題にしたのは、やっぱりさすがとしか言いようがありません。なかなかキャッチーです。「そこからはじめてみようか」とか思いたくもなります。

まだ最初の方しか読んではいませんが、なかなか良さそうです。その部分を読んだだけでも、野矢氏がどうしてこの本を訳そうとしたのか(氏の発案であると勝手に仮定して)がはっきりと見て取れるのが興味深いです。もしかしたら原文からしてそうなのかも知りませんが、翻訳書であるにもかかわらず野矢節がやや効き過ぎているのではないか、と妙な心配をしてしまいたくなるほどです。

本書は、いわゆる「倫理学」の本というよりもむしろ、「倫理」の本、あるいはそれこそ帯に書いてあるように「倫理トレーニング」の本ですね(実際、野矢氏が産業図書から出している『論理トレーニング』に倣ってか、春秋社らしからぬ(?)ソフトカバー版だし)。しかも本書の最後には、補論として、「倫理のレポートを書く方法」という章まであります。レポートや論文一般の書き方というのは掃き捨てるほどあるけど、特に「倫理」にテーマを絞ったものは珍しいのではないでしょうか。とはいえ、全体をパラパラと見てみた限りでは、必ずしも「倫理的思考」に限定される必要はなく、むしろ「議論や問題解決のための柔軟な発想力」一般のトレーニングにもなりそうな気がします。

自分の硬直した思考力をほぐすのに、この本が少しでも役に立てばと願わずにはいられません。